甘い脅迫生活
「貴方が私を妻にしたのは、償いからですか?それとも愛しているからですか?」
「っっ、」
目を見開いた優雨は、まっすぐに私を見つめている。私からは逸らさない。だけど優雨も、私から視線を外さない。
優雨の驚きの表情は少しずつ不快さを表し、やがてそれは憮然としたものへと変わる。
「君を愛している。」
まっすぐにぶつけられる言葉には、濁りがない。もしこの中に少しでも同情が含まれていたのなら、この人は私をまっすぐに見れてはいないだろうから。
それでも。同情が含まれているとしてもこれだけ堂々と言えるのなら、それは私の負けだ。
それだけこの人は、私を想ってくれていることに違いはないから。
「それなら、いいんです。」
瞼を閉じて、小さく溜息を吐いた。
なぜ私は今、ホッとしてるんだろう?
その答えはもう出ている。
「私たちの出会いは脅迫からでしたけど、私は貴方との生活が、とても心地よかった。」
「……美織。」
目を開けば、優雨が私を見つめている。月明りしかないというのに、優雨はその場で光を放っているように美しい。
美しいという言葉は男性にあまり使うものじゃないけど。
「なぜか落ち着いたんです。こんなに先の見えない、不安な生活が一番。」
この人の存在は、酷く私を不安にさせる。
私の手を握る優雨の手に、一層力がこもる。少し痛いくらいだけど、それだけで胸がドキドキした。