甘い脅迫生活
「私はきっと、社長夫人としての役割を1割も満たしてないでしょう。それが不安で、怖かった。貴方という素敵な人の隣にいる、平凡な自分が怖かった。貴方といるのは、とても怖い。」
くしゃりと顔を歪めた優雨。だけど、私にとって、恐怖は……
「ありがとう。貴方といると、とても怖い。」
私が人間である、証。
優雨の手を、強く握り返せば、俯いていた怯えた目が、まっすぐに私を見つめる。
「貴方はそうやって、どんな時も絶対に私から目を逸らさない。」
私たちの始まりは、間違っている。だけど、終わりはまだまだ、先だから。
「そうやって見ていてください。私は、貴方の隣に立てるように、頑張りますから。」
「……え?」
不思議そうな優雨の表情。私も首を傾げた。
「助けてくれて、ありがとう。これからもよろしくお願いします。優雨。」
「っっ、」
お礼を言うのは、少し照れる。そしてそれ以上に、奥さんとして、旦那さんに宛てる言葉も。これからも、私は、できるのなら、優雨の隣で過ごしたい。
始まりは脅迫だったけれど、あとは至極まっとうだった、私たちの関係。
このまま変わらずにいられたらと思う。