甘い脅迫生活
「例えばですね、人にナイフを向けられたら、貴方はどう思いますか?」
私の質問に、優雨が視線を落として、上げた。
「怖いだろうな、多分。」
「ですよね。」
至極まっとうな返答に、苦笑いしてしまう。
「でも私はそれを、恐怖とは受け取れない。」
そして、その答えに反して、私の答えはとても難解だ。私の言っている意味が分からないせいか、優雨が眉間に皺を寄せてこちらを見ている。
だけど自分でも、どう説明すればいいのか、それすら分からなかった。
「多分、身体は感じてるんじゃないでしょうか。心とか?そういうのは。でも、頭が理解しない。目の前にナイフがあって、当たり前のように自分の身体にめり込んで行くのを、小さい私はそれを恐怖とは受け取れなかった。」
「っっ、」
目を見開く優雨の反応それが正解。
私は普通じゃない。だけどこれは、人に言わなければ普通じゃないと分からない。
あの時、医者は言った。
『よく我慢したね。強い子だ。』
あの時、お父さんは言った。
『怖かっただろう?可哀そうに。』
あの時、お母さんは言った。
『すぐに助けてあげられなくてごめんなさい。』
それは、医者として、親として、心から言った言葉。