甘い脅迫生活




「誰もが気付いてないんです。みんな私を見て、怖いのを気丈に我慢していると思う。子供の頃は強い子。成長するにつれそれは、落ち着いてるとか、度胸があるという言葉に変化するんです。」



不思議でしょうがなかった。恐怖すら感じていない私に、よく我慢していると褒めてくれる大人たちが。なぜ、褒められているのかすら分からず、自分の欠陥に気付かない私は、そのまま成長した。



「それなのに、なぜか貴方が怖い。」

「……美織。」


悲しそうに私を見る優雨が、月明りに照らされている。薄暗いはずなのに、なぜか眩しい。こんなに存在を強く感じた人は、生まれて初めてかもしれない。


「嫌われるのが怖いんです。」


あんな始まりなのに、この穏やかな時間が無くなることの方が怖いと思った。


「同情だったと言われるのが、怖い。」


分かっていたとしても、やっぱり試すようなことを言ってしまった。


「この手が、離れていくのが、」


大きな手。私の手を包むこの手が、他の誰かの手を握ると思うと……


「怖いっ。」

「美織……。」


ポロポロと涙が零れ落ちる。泣いたのなんて、いつぶりだろう。


こんなに胸が苦しいほど、好きになっていたなんて。


認めたくなかった。いや、認めちゃいけないと思った。




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