甘い脅迫生活
少し考えた社長は笑う。それはそれは綺麗な笑顔で。
「仕事って、どっちのかな?」
後ろには真っ黒なオーラ、を放っていると錯覚させるほどの綺麗な笑顔で、笑う。
バレとるがな。
少しイラついたおかげで上がっていた血圧は、サッと急下降した。全身に汗が噴き出して、一気に身体が寒くなる。
一応、笑顔を保ってはいるけど、きっと引きつってるだろうな。
【クビ、確定。】
その言葉が脳内で何度も反芻される。
「物流部の事務?それとも、キャバクラ、シュシュの厨房のバイト?」
まさかの、副業場所までバレとるがな。ちょっと恥ずかしい店名まで。
「えと、物流部の、方ですー。」
とりあえずゴリゴリの愛想笑いで誤魔化そうとしてみるけど、相変わらずの寸分の汚れもない笑顔を向けてくる社長と無表情の山田さんは、騙されてくれそうもなかった。
「っっ、すみませんっ!副業は辞めますのでっ、どうかクビだけはっ。」
今勤めているキャバクラの厨房は他より時給が良かった。勿体ないけど、それ以上に給料のいいあの会社をクビになる方が私としてはかなり痛い。
ほぼ90度くらいの角度で素直に頭を下げた。ウチの社長は容赦がない冷徹人間だという噂だけど、少しくらいなら人間性に訴えかけれるかもしれないし。
やるだけはやってみるべきだ。