甘い脅迫生活
私がこれから失うものは、死へ続く道に直結する。大げさじゃない。それだけ私には、お金を稼ぐということが何よりも重要なんだ。
頭を下げたままの私に、誰も声をかけることはない。だけどここで頭を上げるわけにもいかない。
副業は規則でしてはいけないのは分かっている。だけど私にも事情があった。
それがバレた今でもクビになりたくないなんて、かなり図々しいけど……こればかりは、頼むしかない。
ふと、私の肩に誰かの手が乗った。その手は温かくて、とても大きい男の人の手だ。
目の前に出現したスリッパは、社長が履いていたもの。もしかして。
「うちの会社はね、副業禁止なんだ。それにどんな事情があろうとクビ。それが規則。」
「っっ、」
少しだけ浮上した気分は、一気に叩き落とされた。やっぱり、初めて遭った一社員に融通してくれるなんてありえない。
……終わりか。ごめん、お父さん、お母さん。目をギュっと閉じた。
「でも君は別。続けていいよ。そのまま。」
「へ?」
驚きで上げた私の顔はきっと間抜けに見えるんだろう。ついでに必死で我慢していた涙が頬に一筋流れた。水鼻も出てるし。最悪。