甘い脅迫生活
近すぎる距離に顔の温度は上がりっぱなし。ここまでの人が本気で口説くと私なんて紙を吹いて倒すよりも簡単なのかもしれない。
「社長。山田です。」
「入って。」
助かったと安堵するのか、来てしまったと嘆けばいいのか、山田さんが来たことで社長との距離がほんの少しだけ離れた気がした。それでも社長の身体は完全に私の方を向いたままで、綺麗な微笑みは頬杖をついて私を見つめている。
社長の至近距離からの笑顔と、目の前に立つ無表情の山田さん。
2人に挟まれた私は……、
---ー、
「よろしくね、奥さん。」
「はぁ。」
最悪の契約に、判を押していた。
絶対的王様。世間は彼をそう呼ぶ。
人々の食を支え、経済を支える男は、何を考えてるのか私を見染め、妻にした。
人は、シンデレラストーリーだと羨ましがるかもしれない。だけどこの時は確かに、私たちの間には愛なんて存在していない。
そんな結婚生活なんて、絶対に長続きしない。この時の私はそう思っていた。
私を脅迫した社長は、甘く不敵に、私を愛した。