甘い脅迫生活
妻をおとせ
「先輩。入力終わりました。」
「うん、さんきゅー。さえちゃん休憩入っていいよ。」
「えー、待ちますよ。んで一緒にお弁当買いに行きましょ、先輩。」
可愛い後輩さえちゃんの笑顔。曇り一つないそれは私の心を癒してくれる。
「さえちゃん、結婚して。」
「あらっ、どうしようかなー。先輩って結構男前だから考えちゃおうかな。」
もうこの際、あの事をなかったことにできるなら相手が女の子でも構わない。彼との結婚をなかったことにできるなら、もうなんだっていい。
「あ、そう言えば先輩、昨日、どうしたんですか?」
「へっ、」
抱きつく私の頭を撫でながら、さえちゃんは可愛らしく首を傾げた。
「病欠って聞きましたけど。先輩がいなくて大変だったんですよー。生理痛ですか?」
「……まぁ、そんなような、もんよ。」
なぜだろう、目が合わせられない。
「しかもお兄さんが電話してきたって。彼氏じゃないかって所長が噂してましたよ。オヤジって嫌ですねー。」
「ははは。」
いつ私に兄ができたのか。所長の勘繰りもあながち間違いじゃないのかもしれない。
恐らく電話したのは山田さん。正確には彼氏ではなく、夫となる人の秘書だ。
夫となる、人。
「はぁ。」
「あれっ、先輩、元気ないですねぇ。まだ痛いとかですか?」
「うん、まぁ。」
痛みなら、薬を飲めば治る。だけどこの憂鬱の原因は決してなくならない。