甘い脅迫生活




昨日私は、確かにサインした。


西園寺フード社長、西園寺優雨と夫婦となる届けに、確かに。



私がサインしたのを確認した社長の満足そうな笑顔は、今でも忘れられない。悪魔が笑うとは、まさにこのことかと思うほどの不敵な笑みだった。


その後、仕事があるという社長と一緒に行きと同じ車に乗せられ、家に送り届けられた私。家に帰ってみれば当たり前だけど朝と同じ自分の部屋がそこにあって、ほったらかしの洗い物もそのままだった。そこでふと、もしかして夢だったんじゃないか、と思ったりもした。


今日はなにかの理由で会社が休みになったんだ。そう思うことにして、昼寝なんかしてみたりして。突然降って沸いたラッキーな休みだと思うことにした。


だけど寛いでいた私のスマホが着信を知らせて、何気なしに見て後悔した。



《明日、仕事が終わったら迎えに行く。》



それだけが書かれたメッセージ。いつの間にIDを調べられていたのか。友達登録もちゃっかりされていて、そら寒さを感じた。


絶対、山田の仕業だ。あの無表情を思い出してイラつきすらした。


そして今日。社長が迎えに来る理由が分からないから、一日中憂鬱だ。


だからさえちゃんの何気ない可愛さにも癒されてしまう。



「薬いります?持ってますよ。」

「ううん、いいよ。ありがとう。」


さえちゃんが、可愛らしいピンク色のポーチを無機質な業務用机から取り出してこちらに見せてくる。机の上の物といい、やっぱり女子力的にも、この子には完敗だ。







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