甘い脅迫生活
私はこれからどうすればいいのか。
社長の妻として努力すればいい?それとも戸籍だけ繋がっていれば満足なのだろうか?
それともこれ自体が、長い夢?私は昨日の朝、事故にでもあって今、長い長い夢を見ているのかもしれない。
突拍子もない出来事の中心に突然立たされれば、そこまで頭の回転が早くない私は混乱しかしない。
そして、状況をどうにかしようと思うほど、社長にも思い入れはなかった。
「どこに行くんですか?」
私の反対側から社長が乗り込むやいなや、そう聞けば、同じく助手席に乗り込んだ山田さんが運転手さんにゴーサインを出す。
走り出した車。動き出した景色を背景に、私に笑顔を向けたままの社長をジッと見つめた。
「役所だ。」
「へ?」
社長が出した答えは、意外なもので。でもその言葉から連想されるのは、逃げられない現実。
「婚姻届けを出しに行く。2人でね。」
「っっ、」
優雅に足を組んで笑う社長は、徐に私の額を撫でた。
「俺はね、こういうことはきちんとしたいんだ。君と俺が、夫婦になる。それを2人できちんと、自覚していきたい。夫婦とは、それを積み重ねてやっと本物になっていく。」
その言葉には誠実さが溢れていて、私と社長が本当に愛し合っていたとしたら、私は感激して泣いていたかもしれない。
だからこそ今は、ちっとも胸には響かなかった。