甘い脅迫生活





車に揺られて窓の外を見れば、見慣れた景色が少し、高級なもののように見えた。



不思議な感じだ。確かにいつもと同じで、1日めいいっぱい働いて身体はボロボロなのに、どこか気分が高揚している。



社長とは、キスもしていないばかりか、体の関係ももちろんない。そもそも、根本的に恋愛関係でもない。


会って数日。知り合い以下の関係だ。それなのになぜか私たちは今、正真正銘の夫婦だった。


左手を見れば、当たり前に指輪もない。


プロポーズは脅迫だったし、今も脅されている。それなのに、警察に駆け込もうかと思うほどではないのは……


やっぱり私が、社長を社長として見ているからだろうか?



社長がお金持ちだから?それともイケメンだから?本当に私は、お金目当てじゃないと言い切れるんだろうか。



借金は、今まで通り自分で返せと社長は言った。私もそれにもちろん承諾したはず。



だけど、結局その借金を返すお金を稼ぐために、社長の脅しに屈している私は、お金目当てとも言えるんじゃないだろうか?



そんなことをグルグル考えてしまう。少しずつぼやけていく街の景色。閉じかけた瞼の裏に浮かぶのが、社長の笑顔だということが凄くムカつく。



これから私たちの生活に、どんな日々が待っているのか。恐いが9割。それなのに。1割だけ、いや、5分だけ、楽しみかも、なんて思っている自分もいた。


だって、誰かがいる家に帰るのなんて、凄く久しぶり。


心地よい振動を感じながら、目を閉じた。




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