甘い脅迫生活
「脇坂、美織さんですね?」
「はい、そうですけど?」
いつもの月曜日。日曜日の副業の余韻冷めやらぬままダルダルで出勤する私を、笑顔の素敵な男性が呼び止めた。
真っ黒なショートをきちんとセットして、切れ長の鋭い目は笑顔で緩和されてかっこよさを引き立てる。スタイルも抜群。何より、スーツに細見の眼鏡というのが好みでポイントが高い。
「わたくし、西園寺フード社長付き秘書をしております。山田(やまだ)と申します。」
名前の平凡さが霞むほど、肩書きも魅力的だ。
「えと、私になんの御用で?」
あ、変な敬語になった。でもさっきからドキドキが止まらない。それは山田さんの素敵な容姿のおかげでも肩書きでも決してなく。
まさかたかが社員の副業に社長が出てくんのかという疑いだ。
全てが疑わしくて、うろたえまくりの私。
もしや私の副業がバレたか?
それとも何か別の粗相を?
まさか秘書に抜擢とか。
いやいや、副業問い詰めるなら人事が来るでしょ。
次々に出てくる疑問。それを悟られないようになんとか笑顔を務めてみせるも、この素敵な笑顔の秘書さんにはお見通しな気がしてくる。