甘い脅迫生活




ほんの少し。ほんの少しだけ、唇同士が触れ合っている。だけどこれじゃまだ、キスとは呼べない。


ここで社長の名前を呼べばきっと解放してくれるけれど、あまりにも近すぎる距離は、言葉を吐き出しただけで完全に触れ合ってしまうだろう。


社長もそう思っているのか、何も話さない。


見つめてくる色素の薄い綺麗な目は楽しそうに細められて、甘えるように指先が私の髪に絡んだ。



「っっ、」


なんとか、社長の肩を掴んで押して。できた距離に、ホッと息を吐きだした。


突然のことに驚いたのか目を見開く社長を睨みつけた。


「呼ぶんで、やめてください。」


すると社長は、嬉しそうに笑みを浮かべる。その笑顔はなんだか、心臓に悪い。



「……、う、」

「ん?」


真横に座りなおした社長が、頬杖をついて首を傾げている。甘い雰囲気。可愛い笑顔。ああ、もう。


これじゃ心臓が、反応してしまう。


「優雨!これでいいですか!」

「だめだ。」

「は?」



思い切って言ったのに、社長は首を縦に振らない。


「もっと甘えるように、どうぞ。」

「はぁ?」


手を差し出す社長の”おかわり”に、思わず叫んでしまった。



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