甘い脅迫生活
「優雨は、」
名前を呼んだだけで、伏せていた目をキラキラさせて見てくる社長は、攻撃の手を緩める気はないらしい。若干押され気味の私は、自分を奮い立たせて立ち向かう。
「お付き合いされている方はいないんですか?」
その質問に、社長の表情が一気に曇った。それはそうか。私と結婚したのに今付き合ってる人がいるなんて非常識極まりない。私の質問は言い換えれば、「あなたはクソ野郎ですか?」と聞いているようなものだ。
でもここは知っておくべきだ。後でこの家に踏み込まれて修羅場なんて御免だし。
「いるはずがないだろう。」
「言い切れます?」
憮然とした表情の社長は、今度は不機嫌そうに顔を逸らした。さっきまでは嬉しそうだったのに。ほんとに表情がコロコロ変わる人だな。
秘書が完全無表情だから、均整が取れていいのかもしれない。だけど、西園寺グループの新社長は32という若さで元々良かった業績を更に飛躍させた敏腕だと聞いている。
そんな人がまさか、女を口説くのに漫画を参考にしたり、”ありがち”なシチュエーションを使うなんて思いもしなかった。
結婚してすぐに浮気バンバンされても困るけど。ここまで真正面から向き合われるのも正直、困るというか。
いずれ社長が飽きるか私が耐えられなくて投げ出せば、きっと私たちの関係はあっさりと崩れてしまう。いつかは終わりが来る結婚生活を、私も真面目に向き合えば。
きっと私は、傷ついてしまう。