甘い脅迫生活
「脅迫してまで君と結婚したのは、少なくとも俺には、相応の感情があるということだ。それを今言っても、きっと君を戸惑わせてしまうだけだ。だけど俺は、君と結婚したくてそうした。無理矢理だったが、君も判を押したのなら、見てほしい。俺という人間を。」
不思議とその言葉は私の中にストンと落ちた。
好きとか、愛してるとか、そういう言葉よりもずっと誠実に聞こえたんだ。
「あの、しゃ、ゆ、優雨。」
「なんだ。」
色素の薄い目は、まっすぐに私を見て笑っている。絶対に逸らされない視線。それに免じて。
「これから、よろしくお願い、します。」
少しだけ、優雨を見てみようと思った。
顔を上げれば、目を見開いたまま固まっている優雨。
「あの、ゆ、優雨?」
まだ名前を呼ぶのは慣れない。
私に名前を呼ばれてハッと気が付いた優雨は……
「ありがとう。」
とても、とてもきれいに、微笑んだ。
こんな笑顔、反則。慌てて視線を逸らした。
「……いいえ。どういたしまして。」
きっとこんな笑顔を、何も知らない、初めての場所で向けられたなら。