甘い脅迫生活
「親切で運んでくれたんでしょうから、お礼は言わないと。社長が嫌なら社長が電話かけてくださいよ、私が代わりますし。それに、コンシェルジュ?ホテルにいる人のことですよね?目撃の意味が分からないのできちんと初めから話してください。」
優雨の理不尽さに苛立ったせいか、不満がついに爆発したらしい。出るわ出るわ。ここ3日だけだというのに人生分くらいの不満が私の中に溜まっていたようだ。
「それから、突然引っ越しとかやめてくださいよ。朝何もかも放りっぱなしで家を出たら引っ越し業者がいましたよ。これまた山田さんがいて恥ずかしいったら。」
考えてみれば、山田さんに私色々恥ずかしい部分ばかりを見られている気がする。あの無表情の裏で絶対笑ってるはず。そう思うとほんとに、恥ずかしい。
「とにかく!一から全部!ちゃんと!話してください!」
息を切らしてそう言いきれば、ポカンと口を開けていた社長の顔は途端にゆるゆる緩んでいく。
私は腹立つばかりだというのにほわんとしちゃって。お坊ちゃん特有の自分時間というやつだろうか?うーん、でもそれにしては顔が赤いし。これは喜んでいる、というより、恥ずかしがっている、ような?
「すまなかった。色々、勘違いしてて。」
「はぁ、」
どうやら私が山田さんを狙っていると本気で思っていたのか、素直に頭を下げる優雨。ほんとにこの人、うちの社長?偽物な気がしてきた。
もはや存在を疑いだした私を他所に、優雨はホッと息を吐き出してソファーの背もたれに身体を預けた。