甘い脅迫生活
そこでようやく、周りの光景が目に入った。
私が寝ていたソファーは優雨と初めて会った時自分が座っていたソファーだ。どうやら私は寝ている間に無事優雨の家に運ばれてしまったらしい。
抵抗しても無駄なことは分かっていたけど、もう戻れないな。寝ている間に運ばれて抵抗すらできなかったなんて私、なんて間抜けなんだろう。
そう思いながらも、頭は色々考えてしまうものらしい。
家賃のこととか、生活費のこととか、そういうのも一から決めてもらわなくちゃいけない。
私の疑いが現実とならなければ、私は西園寺グループの社長と結婚したわけで。相手が社長なら多忙だろうし、ほぼ家には帰らないかもしれない。
夕食は2人分作るのか。昼のお弁当はいるのか。世の中の社長の私生活なんて知らない私には分からない。
あと、洗濯物。私は別に一緒に洗うくらいはいいんだけど、気にする人は嫌かもしれない。
それだけ、赤の他人と住むとなると各方面で神経を使う。お互い社会人ならなおさら、きちんと話し合って決めないと。
そして、夫婦のこと。
優雨という人間を理解しようと一歩踏み出したばかりの私。なんらかの事情で私と結婚したかった優雨。私たちの間にこれから何が芽生えるかにしても、きちんと決めておくことは必要だ。
夫婦って、ただ一緒に生活する人じゃないでしょ。キスも、もちろんそれ以上もするわけで、いずれは子供を作ったり、老後を過ごしたり。
今のところ優雨とそうなるとは思えないけど、きちんと夫婦という言葉には定義がある以上、そうなるように目指すのか、契約関係として何もしないのか、そこははっきり決めるべきだと思う。