甘い脅迫生活




「それ、どうしたんですか?」



朝さえちゃんが出勤してくるなり、無表情で私の左手薬指を見てそう言った。


「えーと、結婚指輪?」

「は!?」



返答に、大声を出して反応したのは所長。


「脇坂さん結婚したの!?」


そりゃ驚くだろうな。所長は上司なわけだし、普通は一番に報告すべきだ。だけど言い訳すると、私も自分が結婚するって知ったのは2日前なんです!なんて言えるわけもない。


「はい、昨日籍を……。」


苦笑いでそう言うしかない。


「どこの金持ちと?」

「は?」


天真爛漫のさえちゃんらしくもなく、今度は眉間に皺を寄せて私の左手を持ち上げたさえちゃん。ジッと指輪を見てそう聞いてくる。

なぜ金持ちだとバレている?


首を傾げる私に手をクイと上げて指輪をみせたさえちゃんはまるで尋問中の刑事のようだ。

……実際に見たことはないけど。


「これ、この春出たばかりの新作ですよね。雑誌で見ました。」

「へぇ、凄いね、同じものって分かるんだ。」



関心してしまう。アクセサリーなんて大体同じに見えてしまう私からいったら、雑誌を見ただけで同じ物だと認識するなんてまず不可能だ。



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