甘い脅迫生活




「ここ、ですか?」

「そうです。ここです。」



山田さんが逃げようのないオーラで私を押し込めたのは、乗る自体尻込みしてしまいそうなほどの高級車。


フロントの先についているエンブレムは、CMですら拝んだことのないセレブご用達のメーカーだ。



フカフカの車内。ここなら私、住めるし寝れる。確信を持てるほどの乗り心地に酔いしれていると、車はあるマンションの駐車場に入っていった。



そして、冒頭に戻る。


連れてこられたのは20階建てマンションの15階。2部屋で成り立っているらしいそこの一室の前だった。



高級感溢れるドアを前に茫然とする作業服の私。今日はよりによって配送が忙しい日で、事務は午後からだったから朝から作業服に着替えていた。


制服とはいえ女子力の女の字もなく、家から通うのも少々恥ずかしかったというのに、こんな自分ができうる精一杯の勝負服ですら来れそうにない高級そうなマンションに連れてこられるとは……


しかも中には社長が絶対にいる。


世界的にも超有名な人々の食を支えているとまで言わしめているあの西園寺フードの社長、西園寺優雨(さいおんじゆう)がいるんだ。


……顔も知らないけど。


さえちゃん情報だとすごいイケメンらしい。社内報にも載ってないのになんで知ってるのよ、さえちゃん。




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