甘い脅迫生活
「なに考えてんだろ。」
こんなに高い指輪を私に贈るなんて。優雨は本当にこの結婚のこと、真剣に考えてる?いやいや、指輪が高いからと言ってそうは決めつけられない。
お金持ちの基準は分からない。だからこの指輪はただの遊びに使った捨て金ということも十分考えられる。
それでも、そうあっさり思えないのは。
『大切にする。』
あの時の社長の笑顔を、忘れられないからかもしれない。
「ふう。」
溜息をついてなんとか身体を起こした。未だに慣れないこの光景。
埃一つないこの場所で私はこれから生活していかなくちゃいけない。凄い借金を抱えて、へとへとになるまで働いて、ここに帰ってくる。指には高級指輪。なにこのギャップ。思わず苦笑いが零れる。
それに。私から言えばここは他人の家なわけで。今は優雨がいないからいいけど、心底くつろげる気がしなかった。
お風呂に入りたいけど、家主に黙って入るのもなんだな、なんて思ってしまう。冷蔵庫一つ開けるのも躊躇してしまうし、やっぱり色々、気を使ってしまう。
優雨は、私用に部屋を用意してくれた。もちろんベッドは別々。
『もちろん、本物の夫婦になったら。』
そう呟いた優雨は、なぜか寂しそうに笑っていて。脅迫までした強引な人かと思えば、そうやって私に気を使ったりする。
ほんとに、よく分からない人だ。