甘い脅迫生活
そして、優雨以上に分からないのが……。
「また山田か。」
秘書の山田さんだ。
私はこの家に来てかなり日が浅い。それなのに不意に、感じるのは、懐かしさや、親近感。
それは住み慣れた自分の部屋の小物が要所要所で絶妙なバランスの元姿を現すからだった。
それはまるで、他人の家に突然住みだした私への気遣いのよう。
例えば今目の前の高そうなガラステーブルの上にあるキャンドルは、私が凄く疲れた時だけに焚くものだ。もし自分の家に帰っているとしたら、まさしく今使っているであろうもの。
こうして絶妙な場所に置いてある私物は、まるで私自身が置いたように自分の好みを知り尽くしていた。
そして私の部屋も。
引っ越しとは実に面倒なものだ。私物が全て箱におさまっているのを自分で片づけなくちゃいけない。正直、イレギュラーな時期にここに越してきた日は、最悪1か月かけて片づけるしかないと思っていた。
それがどうだろうか。部屋のドアを開けた途端のあのホッとするような和やかな光景は。
私の部屋は、そっくりそのまま移動していた。もちろん家電や脱ぎ散らかしていたパジャマ、ゴミや洗っていない食器はなかったけど、私がそのまま生活をはじめられそうなほど私物はいつもの場所におさまっていた。
服の配列から、本の並び、アクセサリーの場所も、寸分も変わらず。