甘い脅迫生活
正直自分がどこにどのように置いたかなんて覚えてない。だけど部屋で過ごしてみて、一つもない違和感。
あるとしたら唯一、ベッドの質が変わっていたとこぐらいだろうか。
ここまで完璧に、私の部屋を再現されてしまえば、逆に恐怖を感じる。
それをさせたのは確実に優雨で、それを成し遂げたのは、山田さんだ。
「あーもう。恐っ。」
謎の人物、山田。もしかしたら優雨以上に強敵なのかもしれない。
なんて考えごとをしていたら、玄関から物音が。どうやら優雨が帰宅したらしい。
すぐに姿を現した優雨は、少し疲れているように見えた。
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
溜息を吐いた優雨は私の隣に座って、ゆっくりと身体を傾けてくる。
「重いんですが。」
「ほんのちょっと。」
優雨がこめかみを私の頭にぐりぐりと……お風呂入ってないから色々と困る。
それでも優雨はぐりぐりを止めない。ほんのちょっとって言ったくせに、いつまでもぐりぐりと。
「これはなにか効果があるんですか?」
「ああ。絶大だね。」
疲れた顔をキラキラな笑顔に変えてそう言われてしまえば。
「……そうですか。」
「ん。」
ここは強く嫌とも言えない小心者な私。さっき付けたばかりのアロマの柑橘系の香りも手伝って、なんだか穏やかな時間が過ぎて行った。