甘い脅迫生活
「あの、優雨?」
「なに?」
なんとなく、和んでいるからこそ、これまで聞けなかったことを聞ける気がした。
「あの、なんで私、なんですか?」
その質問に、肩が軽くなる。優雨を見れば、ジッと私を見つめていた。
真剣な表情に胸が高鳴る。なんとなく落ち着かない。そんな気分になって、思わず目を逸らした。
「だって、突然だったし……それに今日職場で指輪のこと聞かれたんです。私何も誤魔化せなくて。でも社長、優雨のこと言っていいのかなって。私ほら、こう見えて超庶民ですから、その辺の常識が分かりませんから。なんだか色々……っっ、」
「美織。」
何かを話してないと溢れてしまいそうだと思った。それなのに、努力も虚しく私の目からは次々と涙が溢れ出していく。
涙の理由はたくさんあった。だけど一番大きいのは、不安。
この状況にじゃない。もちろん、脅迫されて結婚なんて普通じゃないし、自分の立ち位置もよく分からない今じゃろくな結婚生活にはならないと思う。それも不安、だけど。
私は今、自分の気持ちが不安で仕方がなかった。
目の前で私を真剣な表情でまっすぐに見つめてくるこの男を、どこか憎み切れていない自分がいることが、不安だった。