甘い脅迫生活
これは愛情なのか、契約なのか。それすらもはっきりしていない、私たちの関係。
曖昧なまま生活していくには、この人は魅力的過ぎる。
きっと、期待してしまう日がやってくるだろう。
愛情を求めてしまう日が来るかもしれない。確信に近いそれは、今の私には不安でしかない。
「美織、これだけは覚えておいてほしい。」
それでもこの人は、誠実に私と向き合う。
「俺は、君を妻にしたかった。それは打算でも悪意でもない、愛情からだ。」
それなのにこの人は、とても不誠実だ。
「そんなの、信じられない。」
「だったらそれを、確かめて欲しい。俺の傍で。」
そう言って私を抱きしめる優雨の腕の中は、とても心地よくて、安心した。それと同時に不安で仕方がないのは、この人を好きになってはいけないと、心の中の自分が叫んでいるからだ。
頭の中は、酷く冷静だった。
多額の借金を抱えて、会社の配送部の事務をしている私が、社長に見染められて幸せになるなんて、そんなシンデレラストーリー、誰が見るのだろう?
私はそんな高望みはしない。優しい人と付き合って、時に喧嘩して、時に笑い合って、穏やかで借金なんてない普通の生活を送る。
私の夢は、そんな普通の生活だ。