甘い脅迫生活




「そうでーす。」

「ふふふっ、」



黒さえちゃんに思わず噴き出して、キョトン顔の所長を見た。


「まぁとにかく、ダサくても所長の言う通りにしないと。さえちゃん、お仕事だよ?」

「脇坂さんっ。」


感動されてるけど、所長の苦労は分かっているつもりだ。


「えー。やだなぁ。ここ緩いからすごく楽なのにぃ。」

「ふふ、それは所長が優しいからだよ。」


さえちゃんは仕事はできるけど、ほんの少し、社会人としての自覚が足りない。いや、足りないというのも違うかもしれない。この子はとても頭が良い。だから多分、今している開放的な格好も、うちの所長だからこそしているということもあり得る。


きっと、その時の上司で彼女は見た目がガラリと変わるだろう。


要するに。


「さすが脇坂さんだなぁ。助かるよ。」

「所長、もう少し厳しくしてください。」

「分かってはいるんだけどね。」



目の前で溜息をついている所長が、舐められてるんだ。


「爪は磨いてもいいっすか?」

「デコはだめだよデコは。」

「磨くとデコは違いますってぇ。」


2人を見ていると親子みたい。苦笑いでやりとりを見ながらも、頭は別のことを考えていた。



巡回は一応抜き打ちということになるから、優雨に聞くわけにもいかないだろうし。


これまではまず職場で会うことがなかったからなんともなかったけど、ここで優雨に社長と一社員で会うというのは、今更ながら緊張してしまう。


どんな顔でいればいいのやら。想像もつかなかった。



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