甘い脅迫生活
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なんだかんだ考えている間に、あっという間に当日です。
あの日以来、優雨に聞くにも聞くことができず、モヤモヤしたまま日々を過ごした。
でも結局は考えても当日になってみなくちゃ分からないわけで。もうぶっつけ本番だと、開き直ることに。
「立木さん。最高だよ。」
「はい所長セクハラー。」
「え”!」
2人のやりとりは相変わらずだけど、今日のさえちゃんは完全真面目モード。一応仕事用だったはずの短めの付け爪は艶々の本物の爪に。パンプスはぺったんこで、ダサくて着ないと言っていた作業服を今日はきちんと着ている。
必ず巻いてある髪は今日はストレートでポニーテールにしてあって、メイクもトーンが低め。とにかく私も所長に同意したいくらい、最高に普通の格好だった。
やっぱり、舐められてたのね、所長。内心同情全開で所長を見ながらも、朝から、私の胸はきっと所長以上に高鳴っていた。
なんだろ、緊張するな。
社長としての優雨を見たことがないからか、会社での優雨にどう接していいか分からない。
「先輩ー。お茶っ葉ってこれでしたっけ?」
といっても、私が優雨と接することはないのかもしれないけど。
「ああ、それそれ。所長がわざわざ買ってきた高級品。」
「それは言わないでいいから!」
今日社長が着いたら所長先導の元所内を見回る。そのあとはこの事務所に来てもらって、高級茶をすすりながら所長の報告を聞く。
お茶担当はさえちゃん。私はというと、見回りの時にある程度の事務作業を終わらせてしまい、入れ違いに外の配送の手伝いに回ることになっていた。
なぜそうするのかは明白。私は馬鹿だから結構顔に出やすい。しかも不器用だからうまく立ち回ることもできないだろうし。
他人でいるべきかそうじゃないか、それも分からない状態じゃ、全然会わない方がいい。
それに、社長が来るからといってうちは通常営業なわけで。いつもと同じくきちんと仕事がある。さすがに所長の代わりなんて無理だけど、私ができる範囲でなら、仕事ができるはずだ。