甘い脅迫生活



それからはまさに、地獄だった。


主に所長が、だけど。


優雨は物腰は柔らかく、常に笑顔だ。言葉を荒げることもなく、抑揚のない声で言葉を紡ぐ。だけどそれが災いしているのか、それとも丁寧な言葉遣いなのにいちいち棘どころか刃物が飛ぶせいか。


うちはさえちゃんの服装とかを黙認しているところで分かるように、ほのぼのが売りの配送所だった。基本的に事務所に座ったままの所長。配送の一切を監督、指揮している副所長は部下と仲が良すぎて甘いところがある。


それでもそれなりに秩序というものを保ってみんなは仕事をしてきたつもり、だけど。


まぁ出るわ出るわ。うちの欠点が。


いちいちそんなところまで?と思う所から、言われてみればそうだな、と思う所まで。それこそ内部にスパイでもいるんじゃないかと思うほど、優雨の指摘は的確かつ細かかった。



それを極上の笑みで、しかも目が笑ってなくて言われるなんて。うちの所長、今日すぐに吐血するかもしれない。



約1時間。休憩をはさむこともなく所長は優雨から軽いジャブを1000発くらいくらい続けた。


結果。もうズタボロ。


グロッキー状態の所長は落ち込みが過ぎてもはや頭が床にめり込みそうなほどだ。対してそんな所長の様子に絶対に気付いているはずの優雨は攻撃の手を緩めない。


でも、言われてみればそうなんだよね。


配送ルートの見直しとか、ちょっとした作業の順番とか、私たち事務の使い方とか。優雨が指摘したことはよく考えてみれば効率が上がるような内容ばかり。


それだけ効率が上がれば、余裕が出てくる。余裕があれば別の場所にも目が届くようになるわけで。


結果、この配送所全体の利益に繋がる。優雨はそんなことを、報告書類とこの場を少し見ただけで気づいたんだろうか。


やっぱり優雨って社長なんだな。今更そんな当たり前のことを思った。




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