あなたと指先3センチ
助け舟が必要なくなって座りなおし、私は再びグラスを手にした。半分残ったビールはすっかりぬるくなっていて、別のものを頼むことにする。
恵子ちゃんのことが落ち着いてドリンクメニューを手にしたところで、隣の本田君がトイレに立ち上がる。目の前のさっちゃんと丸山君は、何やら楽しそうにおしゃべりに夢中だ。
この二人、もしかして……。
ふふ、何て緩む頬を隠すようにドリンクメニューを顔のところまで持ち上げる。
サワーやカクテルが写真付きで並ぶのを見ながら、ワインのページで手を止めた。
「サングリア、美味しそう」
デキャンタに数種類のフルーツが漬け込まれたワインの写真は、とても魅力的だ。でも――――。
ドリンクメニューを開きながら、店員さんに手を挙げる。
「あの、このサングリアって、グラスでも頼めますか?」
一人でデキャンタは、さすがに飲み切れない。男性陣はみんなビールを好む人たちばかりだし、さっちゃんはさっきカクテルを頼んだばかりだった。だから、グラスで頼めるならと思ったのだけれど……。
「申し訳ありません。そちらはデキャンタのみとなります」
そっか……。残念だけど、他のにしよっかな。
別なものに変更しようとメニューに視線を戻したら、右隣の席が埋まった。丸山君か戻ってきたのかと、気にも留めずにドリンクを考えていると、隣からすかさず注文する声がした。
「サングリアをデキャンタでお願いします」
「……え?!」
私が考えているすぐそばで突然注文を引き継いだのは、なんとさっき恵子ちゃんを助けた藍田先輩だった。
丸山君だと思っていたから、気がついた瞬間、私の心臓が急激に跳ね上がり、心拍数が早くなる。
驚いて、言葉もないまま藍田先輩を見てしまう。
「飲みたいんだろ? 俺も一緒に飲むから、心配すんな」
言葉もなく、私はコクコクと頷きを返した。