真斗と翔と千鶴
真斗と先輩
 その人はいつも眠そうで、よく窓辺の席で眠っている。
 その人は、墨を塗ったような綺麗な髪と瞳をしている。
 その人は、やる気なさげなくせに負けず嫌いだ。
 その人は本当はすごく優しいのに、普段からそれを出せない。
 これは全て俺の好きな人の好きなところのほんの一部だ。その人の好きなところを挙げていくと日が暮れてしまう。自分でもちょっと気持ち悪いくらいに俺はその人が好きだ。
 その人は俺より一つ上、2年の先輩で部活の先輩だ。
 俺はずっと先輩が好きだった。中学の頃から委員会で一緒だった先輩に憧れていたし好きだった。先輩は中学の俺を覚えていないようだったが、それでも俺は好きだった。
 でももう止めなくてはいけない。先輩を好きでいてはいけない。ダメなんだ。
 先輩には付き合っている人がいる。
 あの人は先輩の幼馴染で、俺よりずっと前から先輩が好きだったみたいだ。別に時間の長さで思いの強さが決まるなんて思ってはいないが、それでも俺は負けている。
 あの人は先輩の彼氏だから。俺がなりたくてもなれなかった先輩の特別にあの人はなった。
 それでも思いを伝えればいいものを、俺はそれができない。「先輩を困らせたくないから」なんて綺麗事を言い訳にしながら、結局は嫌われてこの関係が壊れるのが怖いだけなんだ。
 俺はヘタレだ。俺は俺が嫌いだ。
「あ、真斗君、もう来てたんだー、早いね」
 自己嫌悪に陥った俺をあの人の声が現実に引き戻す。そうだ、ここは部室だった。
「お疲れさまです、翔先輩、千鶴先輩」
「ん、真斗ヤッホー」
‘‘あの人‘‘である翔先輩の後ろから千鶴先輩がひょっこり顔を出す。
 また眠そうだな。
 そう思って少しだけ穏やかな気持ちになる。

 あぁ、やっぱり俺は先輩が好きだ。
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