白い息の向こう側
雪のため電車はかなり遅延していた。昼過ぎに会社を出たはずなのに、空は重くのしかかる雪雲のせいもあってすでに暗い。
マンションまでもう少し──という所でおかしな場面に出くわした。
カエルのような体型の男が小さな男の子に詰め寄っている。
「ねえ、いいだろ? ちょっとだけ。ね?」
「ちょっとだけって何をだよ。嫌に決まってるだろ」
出っ張ったお腹が少年の顔に当たりそうなくらいに接近している。どう見積もってもダメな状況だ。
「ちょっとあんた。警察呼ばれたいの?」
「うえっ!?」
威嚇のために腕を組んで仁王立ちしたはいいけど、相手のデブはしどろもどろになりながらもきっちりひ弱な女だと認識してるっぽいわ。
これはまずいかしら。そう考えていたが、少年が素早く男から離れて私の後ろに隠れた。