君が好きなんて一生言わない。
詳しいことは分からなかったけど、麗のお母さんが亡くなったということが強く印象に残ってそれしか聞こえてこなかった。

それから麗が麗の祖母に引き取られていることが分かった母と俺は、麗に会いに行くことにしたのだけど、結果的には麗と会えなかった。

麗はちょうど学校の行事で出かけているらしかった。

麗に会いに来た俺達を出迎えてくれたお祖母さんは重々しい口で言った。


「麗ちゃんはねぇ、記憶を失っているんだよ。ここに来るまでの記憶がないのさ」


病院の先生曰く、母親を亡くしてひとりぼっちになってしまったショックが原因となって、その事実から逃げるために今までの記憶の全てを忘れたということらしい。

その説明を聞いた俺はすぐに思った。


「ぼくのせいだ…」


俺が麗の傍にいられなかったから、麗は記憶を失ってしまうまでに傷ついてしまったんだ。

麗をひとりぼっちにしてしまったのは俺だ。

麗のお母さんからも「麗のことをよろしくね」と言われてたのに。

麗のことを守るって約束したのに。


「ぼくが、ぼくがいなかったせいで麗は…」


麗をひとりにしないという約束を、守るという約束を、俺は破ってしまった。


そんな自責の念が心を占めていく。


「椎のせいじゃないよ」


母親やお祖母さんの言葉も聞こえなかった。


俺のせいだ。

俺が麗の隣にいられたら、麗は。

いくら泣いても、悔やんでも、麗の記憶は戻らないと分かってさらに悔しくて。

だから俺は自分に誓った。



「つぎはぜったいれいちゃんをひとりにしない」



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