君が好きなんて一生言わない。
スノウドロップだとは言わなかった。

麗は記憶を失っている。もしその言葉がきっかけになって、何か麗を苦しめるようなことになってほしくはなかった。


「どう特別か、教えてくれないんですか?」

「うん、秘密」


誰にも言ったことはないけど、託されたスノウドロップの球根は、枯らしてしまわないように、失くしてしまわないように、ずっと家で育てていた。

毎年冬に白い花をつけるスノウドロップを見つめては麗のことを思いだしていた。

麗が俺と同じ学校にいるかは分からなかったけど、もし麗が学校にいるならと植え続けていた。


誰も見向きもしなかったけれど、それで良かった。

花が咲きさえしてくれたら、それだけで良かった。


スノウドロップは大きく成長したけれど、まだ花は咲かない。

蕾は固く閉じられたままだ。

そんな青い蕾を見つめながら、そういえばと思い出した。


スノウドロップは死を象徴する花らしい。

だから人にこの花を贈ると、「死」を「希望」することになるのだと。

麗のお母さんからはこの花を託されたから、決して贈られたわけではないけれど、ある意味で麗のお母さんは死を望んでいたのかもしれないと思った。

麗のお母さんは自分たちが他の親戚にあまりよく思われていなことを知っていたらしかった。

自分がいなくなれば麗がどんな待遇になるのか、どんな仕打ちを受けるか分かっていたのだろう。


だからこそ望んでいた。


ひとりぼっちで生きる娘の悲しみや苦しみが死ぬことを。

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