君が好きなんて一生言わない。
学校で咲かせてほしいと願ったのも、あの親戚が麗に向ける態度が変わることはないと分かっていたからだ。

せめて学校ではたくさんの友だちに囲まれて幸せに過ごせるようにと思ったのだろう。


それを思うと俺は拳を握らずにはいられない。


どれほどの想いで、おばさんはこの花を託しただろう。

どれだけ悲しんで、どれだけ苦しんで、この花を咲かせてほしいと願ったのだろう。


熱いものがこみあげてくる。

嗚咽しそうなほどの苦しみに、けれどおばさんや麗の方がよほど苦しいのだと思ったらどうってことなかった。


ただ麗が幸せになれることだけを願っていたのに、現実はそううまくいかないものだと思い知らされる。



「まあ、誰かと思えば麗ちゃんじゃない!」


麗がまだうちの近所に住んでいた頃から知っている、ご近所の花田さんが声をかけてきた。

当然記憶のない麗は一体誰だろうかと思っているらしく困惑していた。

麗が記憶を失っていることを知らない花田さんは、俺と麗が幼い頃よく遊んでいたことを話し始めた。

これはまずい。

慌てて花田さんを止めたけれど、時は既に遅くて。


麗は俺のことを疑い始めていた。



「え、先輩…どういうことですか?」



俺は何も言えなかった。
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