君が好きなんて一生言わない。
混乱している麗ちゃんは畳みかけるように言う。


「ねえ、何か言ってくださいよ。

先輩は本当は誰なんですか?

先輩は何を知っているんですか?」


本当は幼なじみで、麗が記憶を失う前からずっと知ってる。


なんて、言えなかった。

言えるはずがなかった。


俺のせいで記憶を失うはめになった麗に、俺が何か言うなんてことが許されているわけがない。

苦しめた俺が、これ以上麗を苦しめたいとは思わない。


「ごめん」


麗にとっての俺は、「同じ高校に通う園芸部の先輩」だけでいい。


俺は麗から離れるように立ち去った。


最後に見た、麗の苦しそうな顔が脳から消えない。


俺は、麗に関わりすぎたのかもしれない。

多分、はた目から見ていてもそうだったのだろうと思う。



「なんでお前はそんなに構うんだ?麗ちゃんのこと」


久々に一緒になった帰り道で不意にユズに聞かれた。

事情を知らないユズの視点から見れば、俺の行動は不可解に思えるのだろう。

俺は答えることもなくユズのその問いを無視していると、案の定ユズに「無視するな!」と言われてしまった。



「鉢植えを壊したからって出会っただけの子だろ?」

「…そうだね」


面倒になってため息交じりに返事をする。

本当は、麗が鉢植えを壊す前から出会っているのだけど、それを説明していると長くなるから言わない。


親友であるユズにすらずっと隠し続けてきた秘密だ。



「お前はさ、麗ちゃんのことが好きなの?」


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