君が好きなんて一生言わない。
「…椎、やっぱりお前サイコーにカッコイイよ」


ユズは憂いを帯びた笑顔を見せて、胸ぐらを掴む手を離した。


「誰かの幸せをこんなに願えるやつも、大切に思えるやつも、椎以外に俺は知らない。お前すげーよ」


「すげーよ」と賞賛するのに、ユズは表情を曇らせる。


「でも椎が幸せにならないなんて、俺は嫌だ。麗ちゃんのことは好きだけど、椎は俺の大事な親友だ。お前には絶対に幸せになってほしい。絶対にだ!」


「ユズ…」


「あーでも、どーしたらいいんだ?こんなに複雑なこと。どうやったら二人とも幸せになれるんだ。解決するにはどーすれば…」


頭を抱えて苦しそうな表情をするユズを見て、俺はふっと笑みが溢れた。


「…ユズのそういう真面目なところ、尊敬するよ」


もし俺がユズみたいな性格なら、麗も俺もこんなに苦しまなくて済んだのだろうか。

麗のことも救えたのだろうか。


そんなことを考えて、しょうもないとやめた。


「…ユズが親友で良かったよ」


麗と出会えたことの次に幸福なことだと断言できる。

一生に一度の友達だ。



それからユズは帰っていった。

さわやかな笑顔を見せて、最後まで明るかった。

その明るさに眩んで、目の奥に焼き付くような痛みが走る。

じんじんと侵食していくようなこの苦しさも、俺への罰なんだと思った。


俺も帰ろうと思い教室を出ると「椎先輩!」と呼び止められる。


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