君が好きなんて一生言わない。
紗由ちゃんはいつもの笑顔ではなく、緊張しているようで身に纏う空気がそうだった。

俺の言葉に頷くと、「椎先輩」と俺の名前を呼ぶ。




「椎先輩が好きです。


私と付き合ってくれませんか?」





__脳内でリフレインするのは、あの日の誓い。


麗を必ず守り、麗が幸せになるために自分の人生を捧げること。


麗が幸せだと思えるときがくるまで、俺は幸せにならないと決めた。

俺が麗を不幸せにしてしまったのだから、俺が幸せになっていいはずがない。


心の中で繰り返しそう思い続けて今ここにいる。


…そもそも俺の幸せって何だろう。

どうなったら幸せだと言えるんだろう。


ふと考えた時、脳裏に響いたのはあの声。


『しーくん!』


幼い日の麗の声。


__ああ、そうだ。

俺の幸せは麗のそばにいられること。





「俺は__」



「分かっています、椎先輩が麗のことが好きだって」




俺は目を見開いた。

ユズはまだしも、まさか紗由ちゃんにまでバレているなんて。

くりりとした目に薄っすらと涙が滲んでいる。



「分かってて、それでも言いたかったんです。椎先輩のことが好きだって。

麗のことが好きなままでもいいんです。

一緒に、いてくれませんか?」


< 140 / 179 >

この作品をシェア

pagetop