君が好きなんて一生言わない。
冗談かと思った。


他の女の子のことが好きなのに、それでも一緒にいてほしいなんて冗談にしか聞こえなかった。


紗由ちゃんだってきっとそんなこと心の底から願っているわけじゃない。


そんなことをわざわざ望むわけがない。


そんなの苦しいって初めから分かっているんだから。


自分で自分を苦しめてしまうような選択を、紗由ちゃんがわざわざ選ぶことはない。

もっと幸せになれる道がほかにある。


俺がそう言うと、紗由ちゃんは首を横に振って目に涙を溜めながら笑う。



「椎先輩といられたら、きっとそれだけでわたし、幸せなんです」



「だから、付き合ってください」と紗由ちゃんは言う。



__今、紗由ちゃんのこの手をとってしまったら、俺は永遠に麗のとなりに立てないだろう。

俺は永遠に幸せになれない。



でも、それでいいのかもしれない。



俺には幸せになる資格がないんだから。





「…紗由ちゃん」




脳裏に浮かんでは消えていく麗の笑顔の中、俺は目の前にいる紗由ちゃんの名前を呼んだ。


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