君が好きなんて一生言わない。
「まだ帰ってなかったのかー?」といつもと変わらない笑顔を向けてくれる先輩。

きっと私を気遣ってくれているんだと思う。私にあまり気まずい気持ちをさせないように、私がいつもと変わらずに過ごせるように。

その心遣いが優しくて、私もその気持ちに応えたいけれど、今はそんな余裕がなかった。


「どーした、どーした?そんな"世界の終わり"みたいな暗い顔して」


「せんせーに怒られでもしたかー?」なんて先輩は茶化して私を笑わせようとするけれど、俯く私を見た先輩はすぐに憂いた笑みに変わった。


「…俺のせい、だよな。ごめんな、困らせて…」


その言葉を聞いた私はハッと顔をあげた。


「ちがっ、違います!ユズ先輩のせいじゃなくて…」


否定はしたいのに最後まではっきり言えなくて、また俯いた私に先輩は「言って?」と言う。


「俺のせいじゃねーんなら、麗ちゃんがそんな顔をする理由はなんだ?」


まるで言うまで離さないと言っているようなユズ先輩の目から逃げられないと思った私は観念した。

言おうとして口を少し開いて息を吸い込んだ私に、先輩は「ごめん、ここじゃ言えねーよな」と言った。


「ちょっと、場所移動しよう」


先輩はニカッと白い歯を見せて笑った。




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