君が好きなんて一生言わない。
「あ、意外だって思っただろ」とユズ先輩がしてやったりと言わんばかりの表情をするから私は笑って頷いた。


「先輩、スポーツしてるから、スポーツドリンクとかコーラとか、冷たい炭酸とかが好きなのかと思ってました」

「その考えだと、スポーツしてるやつは皆コーラ好きってことになるぞ」


そう言われて「確かに…」納得してしまった私に、先輩は「麗ちゃん、やっぱりおもしれー」と笑う。


「スポドリも炭酸も好きだけど、色々考えすぎてなんか疲れたーって時は絶対甘いミルクティー飲むんだ」


先輩は前をまっすぐ見つめたまま言った。


「温かくて甘いもんってさ、なんか気が抜けるっつーか、落ち着く感じがしないか?

考えて考えてゴチャゴチャしてたもんも、一回放り出してリセットできるっつーか…」


「あんま上手く説明できねーんだけど」と先輩は眉を下げてはにかむけど、そんなことはなかった。

言いたいことは伝わってきた。


「そんな風に"人生終わった"、"世界が終わった"って顔するよりは、温かくて甘いもんでも飲んで、とりあえず落ち着こ」


「なんて、そんなこと言ったら無責任か?」と先輩は茶化そうとするけど、私は首を横に振った。


「…ありがとうございます」


温かいココアが染みて、忙しなく動き続けていた心がふっと解けていくみたいだった。

見たいものがちゃんと見える。聞きたいものがちゃんと聞こえる。考えたいことがちゃんと考えられる。

…ユズ先輩のおかげだ。
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