君が好きなんて一生言わない。
「わたし、本当は分かってたんだ。

麗は椎先輩のことが好きなんだって。

わたしが椎先輩のことを好きだと言ったら、麗はきっと何も言わずに身を引いてくれるだろうって。

麗が誰よりもやさしいのを知ってて、利用した。

麗のこと、椎先輩から遠ざけようとしたの」


「ごめんね、麗」と紗由はもう一度頭をさげた。


「謝って許されるようなことじゃないけど、本島にごめん」


呆然とした。

紗由が私を利用した。

私の性格を知ってて、利用した。


その事実はあまりに現実離れしていた。


目の前に広がる世界がますます現実とはほど遠いような気がする。


大事な友達だった。

大切な友達だった。

美紅ちゃん達クラスメイトにいじめられてもそばにいてくれた、唯一の友達。

そんな大切な友達の裏切り。


心の奥底から湧いてくる怒り、悲しみ、憎しみ。けれどその前に私も謝らないといけないことがあったと思い出した。


「紗由、私も謝らないといけないことがあるの」


罪悪感と自己嫌悪に満ちた顔をしていた紗由に、私は頭をさげた。


「椎先輩のことが好きだって、言わなくてごめん。好きじゃないって、嘘をついてごめん」


最初に紗由を裏切ったのは、私だった。


「私が最初から椎先輩のことが好きだって言っていたら、きっと紗由はこんなに苦しまずに済んだんだよね。悲しまずに済んだんだよね。

ごめんね、ちゃんと言わなくて」


紗由は目を見開いた。

< 154 / 179 >

この作品をシェア

pagetop