君が好きなんて一生言わない。
「だから勝てないんだよね」

「え?」


言っている意味が分からず聞き返すけど「何でもない」と言われてしまった。



「椎先輩に好きですって告白したけど、先輩なんて答えたと思う?」



すると紗由は目を細めて笑った。


「『小さい頃から何に代えても守りたい大切なひとがいる。俺はその人を守るために生きてるから、ごめん』だって」


「椎先輩、一途だよね」と紗由は言うけど、相槌をうっている余裕がなかった。

椎先輩には好きなひとがいる。

それも「何に代えても守りたい」大切なひと。


…そんなの、ねえ、勝てっこないよ。

そんなに強く思われてる人に、勝てるわけないよ。


「ねえ、麗。麗は椎先輩が好きなんでしょ?」


その声にはっとして、まっすぐ見つめる紗由の顔を見て頷いた。



「うん。

私は椎先輩が好きだよ」



口にすると不思議と視界が澄み渡っていくようだった。

現実味がなくてぼやけていた世界の輪郭が急にはっきりしていくような感覚がした。


「なら、言わないとダメだよ」


紗由ははっきり言う。


「椎先輩に言うつもりだったから、わたしに会いに来たんでしょ?」


紗由の言うとおりだ。

椎先輩に告白しようと思っていた。

でもそれは、紗由に告げてからじゃないとできないって思ってた。

もうこれ以上、親友に嘘や隠し事をしたくなかった。

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