君が好きなんて一生言わない。
「わたし、麗のことも好きなんだよ。だから悲しんだりしてほしくないの」

「紗由…」


「ねえ、聞いて」と紗由は私を強く抱きしめた。


「どんなことがあっても、もう麗はひとりじゃないんだよ」


ユズ先輩も言ってくれた言葉。

どんなことがあっても、私のそばにいてくれるって。


ねえ、椎先輩。

まるで奇跡みたいだ。


死神だって、祟り神だって、ずっと親戚に嫌われ続けて厄介者扱いされてきたのに、今はそばにいてくれるひとがいる。

全部、椎先輩と関わって変わったんだ。


それを思うと胸がぎゅっと締め付けられた。


…言いたい。

椎先輩に好きだって言いたい。



「言っておいで」


まるで私の心が伝わったみたいに、紗由は微笑んだ。


「後悔しないように、言っておいで」


その優しい笑みに頷くと、鞄をもってそれから椎先輩を追いかけた。


無我夢中だった。


走って、走って、息が苦しいのも気にならないくらいに。



長距離走でもこんなに真剣に走らない。

大体に運動は苦手だ。


だから少しでも速く足を動かないと椎先輩に追いつけない。



息をするたび冷たい空気が、喉の奥、肺に強くぶつかる。

擦れるような痛みの中、だけど考えているのは椎先輩のことだけ。

椎先輩が何か隠し事をしていることは分かっていた。

それは私の知らない私の過去に関係すること。

私と先輩の間になにかがあること。

それが何か私にはわからないけれど、それでもひとつだけ分かっているのは、椎先輩のことが好きだってこと。


やがて椎先輩の背中が見えてきた。




「椎先輩!」


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