君が好きなんて一生言わない。
椎先輩は少しだけ肩を上げて足を止めると、驚いたように振り返る。


「え、麗ちゃん?」


それから息を切らして肩で息をする私に駆け寄ると「どうしたの」と心配そうな顔をした。


「…先輩を、見かけたので、追いかけ、ました…」


息も切れ切れに答える私の背中を擦りながら先輩は「なにやってるの」と呆れたように溜め息を吐いた。



「こんな大変になるくらい走らなくても、連絡してくれたらいくらでも待ったのに」



それじゃ、意味がないんです。

そう答えようと息を吸い込めば、冷たく尖った空気が弱った喉奥を容赦なく刺して咳き込んだ。

椎先輩は背中を擦って私の息が落ち着くのを待ってくれた。

しばらくして呼吸が正常に戻った頃、私は先輩に「ありがとうございます」と擦ってくれたその手を退けた。


「大丈夫?」


椎先輩はものすごく心配そうな顔をしてくれたけれど、私は笑って「大丈夫です」と答えた。

その答えを聞いた先輩は少しだけ安堵したような顔をして「それならいいけど」と言ってくれた。

その優しいところに胸がきゅんと鳴って、また忙しなく心臓が鼓動する。


「それより、何かあったの?そんなに走って、俺を追いかけるなんて」



「先輩に言いたいことがあります」



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