君が好きなんて一生言わない。
「どうしたの、改まって」


先輩は少し笑った。


「何でも聞くけど」


その言葉にちょっと安心して、でも緊張は高まって。

何から話したらいいのか分からなくなって、こうなったらもうどうにでもなれ、と思って私は息を吸った。



「私には小さいときの記憶がありません」



7歳よりも前の記憶がない。

私の中の最後の記憶は、おばあちゃんと暮らしているときのことだ。でもすぐにおばあちゃんは亡くなって、美紅ちゃん家に引き取られることになったのだけど。


けれど、記憶がなくて不便だったことはない。

みんなが1歳の頃の記憶をほとんどもっていなくても普通に暮らしているのと同じように、なんの支障もない。

だから私は人より少し覚えていないことが多いだけだと、あまり深く考えたことはなかった。


「この前出会った花田さんという人が言ってたことの意味は私には分かりません。

でも、私と椎先輩は小さい頃に出会ったことがあるんですよね?」


ずっと感じていたことがある。

椎先輩と一緒にいると、なんだか優しい気持ちになることの他に。


ずっと昔に出会っていたような感覚がしていた。


私の言葉を聞いた椎先輩は何も言わなかった。

何も言わずにただ目線を下に向けて私を一切見ようともしない。


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