君が好きなんて一生言わない。
椎先輩がそのことについて何も言う気がないことは分かっていたし、言わないだろうとも思っていた。

だから、いい。

椎先輩が言わないなら、それでもいい。

言いたくないのならもう聞かないから、ただ私の言葉を聞いてほしい。



「どんな過去があるのか私には分からないけど、どんな過去があったとしても、それでも私は、椎先輩が、椎先輩のことが___」


好きです、と言おうとした。

けれど言えなかった。


さっきまで黙っていたはずの椎先輩が、その言葉に被せるように「麗ちゃん」と私の名前を大きな声で呼んだから。


はっと先輩の顔を見ると、椎先輩は苦しそうな顔をして微笑んでいた。


「俺はね、麗ちゃん。自分と約束したんだ」


「約束?」


「そう、約束」


今まで散々に誤魔化してきた椎先輩が、この時だけは誤魔化さないで真面目に語った。


「俺はずっと昔から約束を破ってばかりで、大切な人をすごく傷つけた。ずっと一緒にいるって約束も守れなかった。

だから俺はその人が幸せになれるなら何だってやるって決めてるんだ」


固い決意なんだと思った。

その目がいつになく真っ直ぐで、いつもは穏やかな声も固かったから。


少し、いや、かなり羨ましかった。

先輩にそこまで思われている人が羨ましかった。



「…先輩は、その人のことが好きなんですね」

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