君が好きなんて一生言わない。
先輩は顔をあげて目を見開いた。

それから憂いを帯びたような哀しい笑顔で言った。



「…うん、好きだよ」



泣いてしまいたかった。

声をあげて泣いてしまいたかった。


でも泣きたくはなかった。

先輩にみっともない姿を見せたくはなかった。

だから必死に口角をあげて笑顔を保つ。


分かってた、紗由から話を聞いたときから、告白を遮られたときも。

椎先輩には大切なひとがいること。


私じゃ届かないことも、分かっていた。

分かってたのに、こんなに胸が苦しい。


「その人、どんな人なんですか?」


「そうだな」なんて先輩は考えるような仕草をする。


「表情が豊かで、笑顔が可愛い人かな」

「そうなんですか」


今、椎先輩の頭に浮かんでいるその人が羨ましい。

椎先輩にそんな優しい顔をさせるなんて、ちょっと悔しい。

私だと、きっと椎先輩はここまで優しい顔をしてくれない。

そう思うと、すごく悔しい。


「上手くいくといいですね」

「…そう、だね」


先輩はなぜか苦しそうに笑う。

あんなに好きな人がいるのにどうして、と思っていると先輩は「雪」と呟いた。

見上げると灰色の空から、はらり、はらりと雪が降ってくる。

< 161 / 179 >

この作品をシェア

pagetop