君が好きなんて一生言わない。
「やっぱり降ってきましたね」


天気予報でも降ると言っていた。


「ひどくならないうちに帰った方がよさそうだね」


先輩の言葉に頷いて、けれどまだ灰色の空を見ていた。

空から降ってくるのは大きな牡丹雪。

ふわふわなそれは手のひらに乗せるとそっと溶ける。



「まるで天使の羽みたいだね」



『まるで天使の羽みたいだね』



昔どこかで聞いたことがあるような音の響き。



「え…?」



先輩の方を見ると、先輩は口元を押さえて「ごめん、もう帰るね」とこの場からすぐに離れるようなことを言った。


「え、先輩!」


「気をつけて帰ってね」


先輩はその場から逃げるように去って行った。


「先輩、待っ…」


待って、と言う前にひどい頭痛がした。ズキンと強く刺すような痛み。

痛みに立っていられなくなってその場に崩れるようにしゃがんで頭を押さえていると、記憶の奥から響くように聞こえてきた。


『まるで天使の羽みたいだね』


それを皮切りに、どうっと溢れんばかりの記憶が雪崩れ込む。

忘れていたはずの、7歳より前の記憶。


止めどなく押し寄せる記憶の波の狭間で、私を呼ぶ声がする。


『麗ちゃん』


私の名前を呼ぶのは、あなたなの?



「椎先輩…」




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