君が好きなんて一生言わない。
しばらく紗由は私を見つめていたけど、やがて「まあ、それが麗の選んだことなら文句は言わないけどね」と溜息を吐いて視線を逸らした。

口調は決して荒くはないし、むしろ私の意見を尊重すると言っている。

でもなんだか私には突き放されるみたいで無性に寂しくて厳しい言葉だと思った。


「…麗はこんな結末でいいの?」


かすれ声で紗由は言う。


「こんな結末を望んでいるの?」


丁度その時担任が教室に入ってきてホームルームを始めると言い出した。

慌ただしくホームルームの準備を始めるクラスメイト達のざわめきの中、静かに紗由の視線が私を捉えていた。


まるで紗由だけが世界から切り離されたような感覚がしていた。

全ての輪郭がぼやけている視界の中で、紗由だけがはっきり見える。

静かに、けれど何より鋭く私を見つめている。


返事をしなきゃ、と思った。

答えはもう決まってるんだ、返事を、紗由に。

息を吸い込もうと口を少し開く。


けれどちょうどその時、「起立」と学級委員が号令をかけた。

その声で紗由は私から視線を逸らしてぼやけた世界の一部に加わっていく。


違うのは分かっているけれど、紗由に見放されたみたいな感覚で胸が痛かった。

私はそれを誤魔化すみたいに、心臓のあたりで拳を固く握った。

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