君が好きなんて一生言わない。
それから昼休みになって、私は空き教室に行くことを決めた。

紗由は何も言わなかった。

いつもは聞いていた、「今日も先輩のところに行くの?」だとか、「一緒に食べよう」だとか、そんな言葉は何もなかった。

私も何も言わなかったけれど、多分紗由には伝わっているんだと思う。


椎先輩に会いに行ったんだと、紗由には分かっていると思う。


今日もコンビニのおにぎりをひとつもって空き教室に向かう。

教室付近は人でざわめいていたけれど、空き教室に近づくにつれどんどん人気はなくなっていって、空き教室の前まで来ると足音ひとつ聞こえない静寂が包んでいた。

扉の前でひとつ深呼吸をする。

教室の内と外を隔てるこの扉は他の教室のそれと何ら変わりはないのに、目の前にあるこの扉だけ特別のもののように感じられた。

扉を見つめているとなんだか逃げ出したい気持ちも湧いてきて足がすくんでしまいそうになる。

そんな弱い心に、でも決めたんでしょ、と私は言い聞かせた。

先輩に言うって、決めたんでしょ。

どんなことになっても、言うんでしょ。

そうやって心をなんとか奮い立たせて扉に手をかけた。


久しぶりに訪れた空き教室は何ら変わりはなかった。

机の配置も、光の差し込み方も、最後に見たままで変わっているものなんて何もない。


けれどひとつだけ、椎先輩の姿がどこにもなかった。



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