君が好きなんて一生言わない。
「そばにいさせてくれませんか。先輩のそばにいられたら、きっと私は幸せになれるんです」

「…また傷つける、苦しめる。それが嫌だから、俺は__」


先輩が震える声で呟くのを聞きながら、それでも愛しいと思ってしまうのは恋だからだろうかとふと考えた。

恋愛って意外と醜いんだよ、とユズ先輩は言っていた。

その通りだと思う。

自分の傍にいてほしいって相手に願ってしまうんだから。


「先輩。約束したじゃないですか」


醜くてずるいのを知った上で、私はこの言葉を先輩に贈る。


「やく、そく?」


先輩は顔をあげた。

その顔は何かに怯えているような、そんな子犬みたいな顔だった。

不安と恐怖に満ちていて、どうにかそれを拭い去ってあげたかった。


「ずっとそばにいるって」


目を見開いた先輩に私は微笑んだ。


「過去は変えられないけど、これからはいくらでも変えられるでしょう?

だから、これからそばにいてくれませんか?」


…本当にずるいなと思う。

こんなことを言って、先輩が断れないように仕向けているんだから。

それでも、先輩の笑顔を見られたからいいのかもしれないなんて思ってしまった。



「先輩のことが、ずっとずっと前から大好きです」



先輩は震える手を私の背中に回してぎゅっと強く抱きしめた。

< 175 / 179 >

この作品をシェア

pagetop